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[2008.03.14] 世界の「環境保全持続力」ランキング

 私は1970年から1979年まで「成長の限界」報告で有名な国際的NGO、「ローマクラブ」日本事務局に在籍した。「成長の限界」は先進諸国が豊かで便利な生活を追い求めれば、有限な地球の環境は汚染され資源は枯渇に向かうとその後の時代を予測した。報告書には二酸化炭素の増加による温暖化の顕在化も明示されていた。

 私は1986年、20世紀が経済開発と戦争の世紀であったとするなら、21世紀は環境の世紀とならねばならないと考え、ローマクラブ時代の同僚、池田こみち氏と日本で最初の環境専門のシンクタンク、株式会社環境総合研究所を設立した。以下は日経産業新聞が連載「転機」だ。記事にも”「環境の時代」を確信”とあるように、世界中で間違いなく環境がキーワードとなる時代に突入すると確信したのである。

 ローマクラブの「成長の限界」報告からすでに40年弱が経過し、まさにに人類の危機リポートに示された標準モデル通りに世界は展開していると思える。その後、出されたIPCCの各種報告を見るまでもなく、世界、人類は前代未聞、未曾有の気候変動、地球温暖化も原因すると思える危機に直面しつつある。いやすでに直面している。

 ところで毎年1月末、スイスで開催される世界経済フォーラム ("World Economic Forum"、略称WEF)は、ダボスで開催されるため通称、「ダボス会議」と呼ばれる。ダボス会議には、毎年、世界中の約1000のビッグビジネス・リーダー、大統領、首相など政治リーダー、学者などの知識人、ジャーナリストが参加し活発な議論が繰り広げられている。

 そのダボス会議で毎年、非常に興味深い世界各国の格付け、ランキングが発表されている。英語でEnvironmental Sustainability Index(ESI)、日本語なら環境保全持続力とでもいうべきものだ。より正確に訳せば「環境面から見た持続可能性指標」であり、その指標をもとに世界の140〜150カ国を格付けしている。当然、日本も含まれている。ESIの指標を研究開発したのは、米国のニューヨークにあるふたつの名門大学、エール大学とコロンビア大学である。以下に、2001年から2006年の間に公表されたランキングのうち上位10位を示そう。

Environmental Sustainability Index
2000 2001 2002 2005
順位 国名 順位 国名 順位 国名 順位 国名
1 Norway 1 Finland 1 Finland 1 Finland
2 Iceland 2 Norway 2 Norway 2 Norway
3 Switzerland 3 Canada 3 Sweden 3 Uruguay
4 Finland 4 Sweden 4 Canada 4 Sweden
5 Sweden 5 Switzerland 5 Switzerland 5 Iceland
6 New Zealand 6 New Zealand 6 Uruguay 6 Canada
7 Canada 7 Australia 7 Iceland 7 Switzerland
8 Ireland 8 Austria 8 Austria 8 Guyana
9 France 9 Iceland 9 Costa Rica 9 Argentina
10 Australia 10 Denmark 10 Latvia 10 Austria
18 Japan 22 Japan 62 Japan 30 Japan
出典:An Initiative of the Yale Center for Environmental Law and Policy (YCELP) and the Center for I international Earth Science Information Network (CIESIN) of Columbia University, in collaboration with the World Economic Forum and the Joint Research Centre of the European Commission

見て分かるように、上位はフィンランド、ノルウェー、スウェーデンといったスカンジナビア諸国、それにカナダ、ニュージーランド、アイスランド、スイス、オーストリアと言った国々が位置している。2000年に試験的にESIを公表してこの方、2005年までの4回、順位は大きく変わっていない。

 ではわが日本国がどこにいるのか、といえば2000年が18位、2001年が22位、2002年が62位、2005年が20位と、政府がことあるたびに環境立国ニッポンといっているのと著しくかけ離れた結果となっている。ちなみに米国、ドイツも40〜50位の辺をさまよっている。

 なぜ、日本がかくも格付けが低いのか? もちろん、ESIは大気汚染、水質汚染、廃棄物、有害物質、自然などなど、膨大なデータと個別指標をもとに掲載し各国をランキングしているから、これで何位になったという決め手が分かるわけではない。しかし、考えられるのは、まず日本の環境保全の能力は、まさに事後救済、対症療法、英語で言えばEnd of Pipe対応、すなわち問題が起きてから膨大な費用をかけ事後的に対策をとる能力である。これに対し、上位にいる北欧諸国やカナダなどは予防原則や未然防止により、もともとある「生地」のすばらしい自然や環境を将来世代のためにリザーブするという環境保全持続能力にすぐれている。

 違った言い方をすれば、日本は Back-end thinking すなわち問題を末端から考え、北欧諸国は Front-end thinking すなわち問題を原因から考えているのである。家に入ったら玄関先に水が漏れているとしよう。日本人はバケツと雑巾をもってくるが、北欧諸国は漏れの原因である蛇口をまず閉めるのである。一端汚染された空気や壊された自然を巨額なお金を掛け浄化したり修復するのが日本の環境保全力であるのに対し、あらかじめ、汚さない、壊さない生活や生産をしているのが北欧型と言えよう。

 もちろん、スウェーデンを例にとればあの広大な土地にわずか800万人しか居住していないという現実はある。しかし、日本が巨額の税金や借金で不要な世界に類例のない規模で道路やダムと言った公共事業を今なお継続している姿は、単に人口密度問題だけではすまないものがあるだろう。もし、日本がEnd of PipeやBack-end thinkingから脱し、Front-end thinking的な生活や生産を実践すれば、間違いなく、環境保全持続力のランキングは上昇するだろう。そんなか2006年のデータが昨年1月末、ダボス会議で公表された。

Environmental Sustainability Index
2006
順位 国名
1 NewZealand
2 Sweden
3 Finland
4 Czech Rep.
5 Unit.Kingdom
6 Austria
7 Denmark
8 Canada
9 Malaysia
10 Ireland
14 Japan
出典:前出

なんと日本が14位にいる。しかし、よく見ると指標が従来のEnvironmental Sustainability Indexではなく、Environmental Performance Indexになっている。「持続可能性」が「成果主義」というか「実績主義」的な指標となっていたのである。

 疑問に感ずるのは、なぜ、両大学がせっかく研究開発し続けてきたESIをEPIに変えたのかである。今のところ、これについてまともな説明が不足している。ただ、ひとつ言えることは指標のなかに長寿が含まれたと聞いた。確かに日本人の長寿は今や世界有数である。しかし、どうだろう。「長寿」が「環境」と相関がないとはいわないが、日本を見ると、高度な医療技術の適用や医薬品の多用などで無理矢理に生かされているという現実を直視せざるを得ない。
 上述のように、日本は依然として対症療法とBack-end thinkingにあり、膨大なカネ、技術、エネルギーを投入して環境をどうにか保全している現実をみるとき、むりやりにEPI指標に変えたのは、何かあったのではないかなどと勘ぐりたくなる。というのも、2006年には従来、一位か二位にいたノルウェーが10位内にいなくなっている。以下の記事にあるように、ノルウェーはごく最近、欧米日本を尻目に、2030年に温室効果ガスの排出ゼロを与野党で合意したばかりの国である。

温室ガス排出、2030年にゼロ ノルウェー与野党合意
朝日新聞 2008年01月18日 
 ノルウェーの与野党は17日、地球温暖化の原因となる二酸化炭素など温室効果ガスの排出を2030年までにゼロにすることを目指すことで合意した。同国は昨年、先進国で初めて50年までに排出ゼロを達成する目標を掲げたが、この時期を大幅に前倒しさせた。
 人口約468万人のノルウェーは、06年の温室効果ガスの排出量は約5400万トン。今後、風力や太陽光発電など代替エネルギーの研究を進めるほか、自国での省エネなどで排出量を3分の2まで減らす。さらに、毎年30億クローネ(約590億円)を投じ、ブラジルの熱帯雨林の破壊阻止や保存など、他国の排出減への協力で自国分を相殺する形で排出ゼロを目指す。ガソリン税も引き上げる。ストルテンベルグ首相は「ノルウェーの政策は世界で最も意欲的だ。この地球温暖化問題への挑戦は、まるで21世紀の『月面着陸』のようだ」と話している。 

 いずれにせよ、今、世界各国に問われているのは、膨大なカネ、技術、エネルギーの投入により無理矢理汚染を押し込める環境保全力ではなく、将来を見据えた持続可能な環境保全持続力である。
 日本の政治、経済の指導者も、はやくBack-end thinkingからFront-end thinkingに思考の転換をはかり、いつまでも官僚主導の「官僚社会主義国家」から脱皮しなければならないことを肝に銘じなければならない。


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