
[2008.06.03] これで良いのか高速道路
−米国方式に学ぶ日本の高速道路考− (その2)
米国における高速道路整備の大きな特徴に市民参加がある。高速道路整備は連邦運輸省(DOT: Department of Transportation)所管の連邦道路局(Federal Highway Agency)が行っている。州際高速道路や連邦高速道路は当然だが、州の高速道路に連邦から州に補助金が出される場合にも重視されるのが、SEEすなわち社会・経済・環境についての環境アセスメントと情報公開、市民参加である。
米国では1946年に制定された連邦行政手続法、1966年に制定された連邦情報自由法、そして1969年に制定された国家環境政策法の3つの連邦法によって事業者に情報公開、市民参加、環境配慮を厳しく義務づけている。高速道路事業では、たとえば道路の起点と終点が決まっていても、路線はどこを通過するかについて複数の代替案がつくられる。多くの場合、路線選定に市民が参加する。参加して路線や構造の代替案がつくられるのである。これをデザイン・イン(design in)という。
徹底した情報公開と市民参加をもとに各代替案を社会面、経済面、環境面から評価し、ひとつの案に絞り込んで行くことになる。代替案のなかには「開発なし」あるいは「何もしない」(no action)もある。
私が過去見てきたアメリカの道路事業の環境アセスメントの中で代替案の数が多かったのはワシントン州シアトル市の橋梁の再開発である。当初、実に19の代替案が提起され、議論によって5つに絞られ、最終的に1つの案となった。再開発という事情もあるものの、やはり19の代替案はものすごい!
では日本の場合はどうだろう?
日本の環境アセスメントでは、そもそも代替案がまったく存在しない。環境影響評価法で代替案を事業者に義務づけていないという本質的な課題もあるが、事業者が作成した環境影響評価準備書をみると、あらゆる項目で「影響がない」とか「影響が軽微である」といった記述が目立つ。いわゆる「環境アワセメント」だ。
日本の場合、道路事業者が行う情報公開と市民参加は、一応やりましたとアリバイ的に行うことはあっても、米国のように市民参加で大幅に計画や事業が修正、変更されることはまずない。住民団体にしてみれば、当初案で強行突破され「道路が通れば道理が引っ込む」という寂しく暗い状況が永年続いているのである。その結果、日本では環境アセスメントの社会的信頼性は著しく低下し、住民はいつしか環境アセスメントを道路事業開始の儀式と思うようになった。
■日本でも税金による高速道路整備が始まるが
さて、日本の高速道路は、40兆円におよぶ累積債務を実質的に棚上げし、今後は「新 直轄方式」で高速道路を整備するとした。「新直轄方式」を要約的に言えば、高速道路整備をめぐり国と自治体が税金をはじめとした財源から資金を出しあう方式である。国によれば「完成後、高速道路は無料開放する」と言っている。
累積債務を最終的にどうするかという重大問題を棚に上げているものの日本でもやっと米国のように高速道路を税金でつくることになったわけだが、当然のこととして多くの問題が残る。そのひとつ目は国、自治体が出す資金の中身である。二つ目は完成後、本当に高速道路が無料開放されるかである。というのも国土交通省には多くの「前科」があるからだ。
繰り返すが、新直轄方式はプール制の特別会計方式ではなく、本来、一般会計から建設資金を供給することにある。自治体はよほど慎重に整備路線を選ばなければいけないはずだ。しかし、政府内には依然として、ガソリン税など自動車諸税を道路特定財源として新直轄事業に使う動きがあり、また他の公共事業同様、地方交付金の名目で自治体側の負担分を国が肩代わりする可能性も否定出来ない。
したがって、口では「新直轄方式」といいながら、その実いわゆる道路特定財源や地方交付金から道路整備の資金が出される可能性は否定出来ない。また一般財源化されるはずの道路特定財源がいつの間にか道路整備財源となる可能性も高い。十分監視が必要だ。
■高速道路の無料化による一般道との有機的連結
このように日本の高速道路事情は寂しく暗いのだが、ここでは米国の経験をもとに提案をしてみたい。
米国の高速道路の大きな特徴は税金でつくり、誰でもが無料で使えることにあるが、それだけではない。私は最大の特徴は、高速度道路と一般道が随所で連結し、一般道路から容易に高速道路に乗り入れが可能となり、その逆も可能なことにあると思っている。下の写真にあるように、高速道路を走っていると、次々に一般道への出口の案内看板が出てくる。

米国では高速道路から一般道路への出口が頻繁にある
日本の高速道路では、一般道との接続はインターチェンジ、ランプなどに限られ、ひとつインターチェンジを過ぎると数10km先に行かないと出入り口がない。有料道路だから高速道路から外に出てしまうと再度高速に入るには改めて料金を支払わなければならない。 今後、高速道路を本当に地域産業やまちづくりに有機的に関連づけるには、米国のように高速道路を一般道路と頻繁に連結させる必要がある。そのためには「新直轄」の高速道路だけでなく、既存の高速道路も無料化すべきだ。なぜなら、既存の高速道路で一般道路との出入り口を多数つくると、多くの料金所をつくらねばならず、ブースを置き、人を雇い、ETCシステムを置かねばならなくなり膨大な管理費がかかるからだ。
実際、米国で高速道路から一般道への出口を見ると、以下の写真にあるようにただ道路の分岐があるだけだ。そこには何ら料金所、徴収施設、ETC設備もない。当然料金徴収のひともいない。日本の料金所、インターチェンジ、ランプのように巨額の建設費、設備費、人件費、維持管理がかからないのである。

一般道への出口はただ道路があるだけですっきりしている
以下の地図は、米国の高速道路と一般道路との関係を示している。サクラメント市を東西に走る連邦ハイウェー50号線だ。わずか3kmの間に3カ所も一般道路との連結部分がある。

下は米国を代表する州際高速道路5号線のストックトン市郊外である。わずか5〜6kmの間に4カ所も一般道との連結部がある。

下は州際5号線と一般道の連結部分の拡大図である。いとも簡単な構造となっている。

■高速道路は使ってナンボ
いずれにせよ米国方式だと料金所は不要だから施設も人も不要である。従来、通過交通でしかなく迷惑施設でしかなかった高速道路と一般道との有機的連結が行われれば、地域社会や地域経済への波及効果もある。従来、日本で高速道路といえば、通過する多くの地域にとっては騒音、大気汚染、日照阻害、自然破壊、景観眺望破壊、地域分断など被害ばかりでいいことはなかった。
さらに日本では道路内にユーザーを囲い込み、高速道路のSA(サービスエリア)や一般道路の「道の駅」など、国土交通省系の外郭団体に多くの利益をもたらす施設や会社が潤うことはあっても、沿道の地元の商業施設に恩恵がもたらされることはなかった。
私の提案、すなわち「新直轄」高速道路だけでなく既存の高速道路も無料とし、一般道路と頻繁に連結すれば、高速道路の利用者は増え、一般道の先にある給油所、レストラン、商店街、観光スポットなどの利用も増え、現状よりははるかに地域は活性化するだろう。高速道路から降りて街を走ることにより、人々の暮らしや文化に触れることが出来るのであり、目的地まで突っ走るだけでは途中の街は次第に廃れていくだけである。いずれにしても高速道路は使ってナンボである!
▼ 他の記事も読む



