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環境・食品

[2008.05.07] いま、なぜ食の安全か?

■食料自給率の低下と食のリスク
 最初に日本の食料の自給率は平成18年度、カロリーベースで見ると、わずか39%まで低下した。今後を見ても農家の後継者不足に加え、地球温暖化による気候変動に直面し、当面改善の兆しが見えない状況だ。気候変動の農業への影響は計り知れないものがあるとされている。大洪水と大干ばつが同時に世界各地で起きるのが気候変動の特徴であるからだ。すでに世界各地でそのサインが出始めている。
 さらに化石エネルギー、とくに石油が乏しくなると世界のモータリゼーションを支えているガソリンや軽油の代替として、トウモロコシなどの穀物から得られる油がいわゆるバイオ燃料として使われるようになり、穀物需給は今後緊迫化する可能性が高い。
 私たち人間は、空気からも有害物質を体内にとりいれているが、圧倒的大部分は食べ物からである。その食べ物が量的に逼迫すれば、量を確保するために、化学肥料、農薬類(殺虫剤、除草剤など)の大量使用に依存する農業とならざるを得ないのではないか、という危惧である。歴史はそれを証明している。
 私たち日本人は中国の農作物や加工食品を問題視しているが、OECD諸国の中で単位面積当たり最も農薬を使っているのは外ならぬ日本なのである。
 ここ数年、「食の安全と安心」問題で日本社会は揺れ動いた。ここでは、食の安全とリスクにかかわる問題を多面的に論じてみたい。

■公益通報者保護法と賞味期限偽装問題
 最初に、「なぜ、今なのか」だが、容易に察しがつくことがある。それは「公益通報者保護法」の存在である。
 一時期、これでもかと連日、賞味期限偽装問題がマスコミをにぎわしたが、これなど間違いなく、「公益通報者保護法」が効果を発揮した典型例であろう。私たちには「義を見てせざるは勇なきなり」という精神風土がある。眼前で不正なことが行われている、しかも何年も継続して行われていれば、内部から外部に通報があってしかるべきである。その意味で同法が賞味期限偽装問題告発のトリガーとなったに違いない。
 この法律は、別名、いや通称「内部通報奨励法」と呼ばれている。平成16年(2004年)に制定されたこの法律は、もともと内部通報を奨励するための法律ではなかった。
 だが、結果としてこの法律によって、会社など組織の内部で行われているさまざまな不正を知った従業員が、内部通報や内部告発をしやすくしたことは間違いない。繰り返し言うが、この法律はあくまでも内部告発者が労働条件などで不利益を被ることを防ぐ、守るための法であり、組織の不正行為の摘発を奨励することを主な目的としているわけではない。
 いずれにせよ、永年、ともすれば隠蔽体質が常態化している日本の多くの会社組織で行われていた不正を、白日の下にさらすうえで、同法が「内部通報奨励」の役割を果たしていることは想像に難くない。もっとも、この法律に問題がないわけではない、制定された「公益通報者保護法」で、果たして内部通報者を十分に保護できると言えるかどうかが問題となっている。労働3法があってないような日本の企業組織が依然としてあるからだ。また零細中小企業の場合、不利益変更どころか組織防衛のため、一気に解雇するといったことが起きる可能性が高い。その観点からさらなる法整備が必要となるだろう。他方、虚偽の通報をすることで企業組織が壊滅的ダメージを受けることもありうる。いわゆる虚偽告訴(告発)への対応も不可欠である。現行刑法に虚偽告訴(罪)という実刑に通ずる厳しい法もあるが、これはあくまでも警察や検察などへの告訴に対応するものであって、それ以外の行政組織への通報は適用除外となる可能性が高い。
 総じて言えることは、過去、会社組織に帰属し忠誠心をもってきた多くの純朴な日本人にとって、「内部通報や告発」は従来非常に違和感がある行為であったはずだ。しかし、それらの通報行為は、けっして組織への裏切り行為ではなく、組織の将来にとって、さらには社会的にとって必要な行為である。その意味で、「公益通報者保護法」が果たしている役割は少なくないと思える。

■重要な急性毒性と慢性毒性の違い
 次に中国製餃子農薬混入事件に象徴される食の安全問題がある。こちらは、賞味期限の虚偽と異なり、健康への実害がある。餃子だけでなく、農作物への日本で使われていない農薬、殺虫剤、除草剤の混入、さらには水銀などの魚介への蓄積問題もある。総じて有害物質やウィルス、菌の食物混入問題である。毎日私たちの口に入るものだけに、看過出来ない問題だが、当然のこととして、冷静に考え、行動する必要がある。
 中国餃子農薬混入については、敢えてここで詳細を述べる必要はないが、たとえば厚生労働省は以前、近海深海魚のキンメダイ、遠洋魚のメカジキに含まれる微量の水銀が、特に胎児に悪影響を及ぼす可能性があるとして、妊婦がこれらの魚を食べるのは週2回以下にするよう注意を呼びかけている。厚生省は日本人になじみの深い魚、約300種について摂食回数の目安を公表している。中国製餃子への農薬混入は人為の可能性が高いが、厚生労働省発表の魚類の方は、環境汚染が魚類に蓄積したと見るべきであろう。もちろん、水質汚染のもとはといえば工場排水、農薬散布、ゴミの焼却などだから人為的なものではあるが。また、いわゆる食中毒の多くでは急性ないし亜急性の中毒症状が起こっている。さらに原因物質との関連で見ると、農薬、殺虫剤、除草剤、有害化学物質、重金属、それにウィルス、サルモネラ菌などがある。
 ここでは食品の安全と安心問題をリスク論と毒性論から見てみたい。まず、人の生体影響には大別して二つのケースがある。第一は、食べてすぐ中毒症状がでたり、病気さらには死に至る場合である。そしてもう一つは、すぐに生体への影響や被害は生じないものの、長期にわたり食べ続け、有害化学物質などの毒物を体内に摂取すると、ガンになりやすくなったり、免疫機能や生殖機能に影響を与える場合である。
 毒性学の観点でこれを見ると、前者を「急性毒性」、後者を「慢性毒性」という。両者の中間を亜急性毒性などとも言っている。
 有名な例として、たとえば長野県松本市や地下鉄のサリン事件は、深刻な急性毒性が問題となった事件である。最近では、千葉県の生協で買った中国製餃子を食べた子供が生死をさまよう被害を受けた。幸い一命は取りとめたが、これも急性毒性による生体影響に含まれる。
 一方、筆者も調査にかかわった埼玉県所沢市のダイオキシン問題がある。ことの起こりは、ほうれん草やお茶の葉を栽培する農地の近くに数10もの産業廃棄物の焼却施設が林立していたことにある。建設廃材に含まれる塩ビなどを焼却するため、ダイオキシンを含む煙が農地に流れ、それを吸いこんだ農作物の葉にダイオキシンが高度に蓄積したのである。
 当時、国や自治体関係者は「直ちに影響があるわけではない」と躍起になって火消しと安全宣言に奔走したが、これは至極当然のことである。確かにダイオキシンは史上最強の毒性を持っているが、問題のほうれん草には人体に急性毒性をもたらすほどのダイオキシンは含まれていないからだ。したがって、すぐに死んだり病気にはならない。
 では、所沢ダイオキシン騒動は行政や一部事業者が言うように問題ないのか?
 とんでもない、問題はある。それは慢性毒性による影響である。
 いわゆる環境ホルモン毒性(正式には内分泌かく乱物質毒性)のように、食べ物に含まれる量が超微量であっても継続的に体内に摂取した場合に、たとえば男性の精子の量が減少するとか、免疫機能に異常をきたすといったことが起こる可能性があるからだ。これこそ、まさにおそろしい慢性毒性の典型例である。慢性毒性では、ひとがすぐに死んだり、深刻な症状を呈さない。だからといって問題がないわけではないのである。私たちはそこをしっかりと認識、把握する必要がある。

■増えている化学物質過敏症
 ところで、農作物や加工食品、水などに含まれる金属類や化学物質の中には、ミネラルなど人間が生きて行く上で必須のものもある。だが、金属類の多くは体内に多く摂取した場合、悪影響を及ぼす。必須のものでも、摂取しすぎれば健康を害するのは当然のことである。
 特に、重金属類やある種の化学物質については、摂取量によって生体への影響、被害の出方が大きく異なることが知られている。当然、大量に摂取した場合、生体影響が大きく、致死の可能性もある。有機水銀による水俣病、カドミ摂取によるイタイイタイ病などがその一例である。
 では、少ない量を摂取した場合どうなのか?
 少ない量を体内に摂取した場合の生体への影響は、ひとによって大きく異なる可能性があることが、ここ10数年の米国における大学や研究所などの研究で分かってきた。たとえば化学物質を多量に摂取すれば、急性中毒となるが、それよりは少ないものの一定量を一度に摂取した場合、あるいは継続的に摂取した場合、ひとによって「化学物質過敏症」という厳しいアレルギー症状を呈する可能性が指摘されている。しかも、一度、化学物質過敏症になると、かなり少ない摂取量でアレルギー症状や化学物質過敏症に固有な症状を呈することになる。たとえば、動物実験で有害作用が見られないほど暴露量が少ない無毒性量の場合でも、化学物質過敏症や多重化学物質過敏症の人にとって固有の症状がでることが最近の研究から明らかになってきている。

図1 従来の暴露量と生体影響の関係
出典:厚生労働省

図2 化学物質過敏症を考慮した暴露量と生体影響の関係

 以上の関係を図で示すと以下のようになる。図1が従来の暴露量と生体影響の関係、図2が化学物質過敏症を考慮した暴露量と生体影響の関係である。ただし、ADIは一日単位の許容摂取量である。
 また東京都杉並区にあるプラスチック廃棄物の中継施設の周辺で起きた「杉並病」はその典型例である。この場合、非常にやっかいなのは、同じ量を摂取しても「化学物質過敏症」とならない人がいることだ。症状がでない人がいることから、「気のせい」ではないかなどとされ「杉並病」を煩っているひとびとの気持ちを逆なでしている。

■消費者自らもリスクの増大に備える
 以上、食の安全とリスクについて多面的に話してきたが、大切なことは、他人任せでなく、私たち消費者は自ら「リスク増大社会」に備えることである。そのためには、さまざまな情報操作や世論誘導に惑わされないことが大切である。国、自治体、事業者まかせでは、手遅れとなることが多いからだ。
 私が代表をしている民間環境研究機関、株式会社環境総合研究所(東京都品川区)は、設立以来、消費者、市民、国民からの依頼に応じ、いかにしたら私たちの身の回りの環境リスク、健康リスク、食のリスクを回避し削減出来るかについて研究するとともに、それを実現するために私たちは、なにをどうすればよいかについて提案し、市民参加で実施してきた。
 一連の賞味期限偽装や農薬混入問題で私がつくづく感じたことは、食の安全を一番重視しているはずの生協(COOP)がこともあろうか、まともな独自検査もしないまま、あの中国製餃子を大量に組合員に売っていたことである。まったく信じられないことである。
 ぜひ、読者も「死ななければよい」とか「直ぐさま影響がない」といったリスク論ではなく、より積極的に「健康で文化的な生活を送るため」のリスク論を身につけ、防衛していただきたい。
 


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